Vol.3 言語の役割に関する最新の視点
「Language is primarily a tool for communication rather than thought」っていう論文で、NatureのPerspectiveに出たやつです。
◆研究の結論
昔から言語っていうのは、人間しか持っていない能力で、「言語があるからこれだけ思考できる、いろんな問題解決ができる」のか、それとも「関係ない」のかが議論されてきました。
言語はコミュニケーションツールとして非常に重要で、それは分かってるんですけど、それに加えて言語っていうのは思考にも不可欠なのか、それとも思考には実は関係なくてコミュニケーションだけなのかっていうのは、ずっと50年以上ディベートされている話題です。
この論文はかなりはっきり結論を出していて、「Languageっていうのはコミュニケーションのためのツールで思考のためのツールではない」という結論を出しています。まあ、思考にも使われるけど、そこがメインの目的ではない。この研究は20年の神経科学の研究成果からいろんな研究結果をまとめて、こういう結論だと言っています。
◆言語能力と思考能力の独立性
どういう順番でこう考えたかというと、まず例えば、失語症の症状が出てしまったりとか、あとは何らかの環境要因で言語を獲得していない場合があるんですけれども、その場合でも(完全に問題がないわけじゃないですけど)、普通の人と同じぐらいの他の思考能力、例えば数学を解く能力だとか、プランニングしたりだとか、プログラミング的な問題を解くっていう能力はあるっていうのがわかっています。

もう一つが、言語能力と思考能力が、実際に頭の中で何か考えている時に、頭のどの領域が使われているのかっていうのはMRIなどで調べることができるようになって、それで見ると、言語を使う場合にはここの部分が使われてますっていう「language network」って呼びますけども、かなりはっきり特定されている。
例えばこういう文章「A girl is playing in the sand」とかを読んだ時に、どこが活動するかとか、全然デタラメな文章を読んでどこが活動しないかとを見て、言語を解釈する時にどこが使われているのかっていうのがはっきりわかっている。

一方で、別のタスク、例えば数学を解いたりだとか、何かの推論を解いたりだとか、あとはプログラムのコードを理解する場合に使われている領域っていうのがどこかっていうのもはっきりわかっている。これは「Multiple demand network」と呼ばれています。あとは「Theory of mind network」って呼ばれる心を読むとか理解するとか、そういった時に活動する領域もわかっています。
この言語能力と思考能力の2つはかなり独立に活動しているっていうのがいろんな実験をするとわかっていて、なので本当に言語が思考に不可欠なんだとしたら(例えば数学の問題を解く場合に1回言語のところを通るんだったら)、青のところが活動して赤も一緒に活動してってなるはずなんですけれども、青のところだけでずっと活動して、最後に言語化する時だけ赤の部分で頭の中にある非言語情報を言語に翻訳して数字を書いたりする。そういうのが起きているので、脳の部分の活動を見ても別だろうというのが示唆されています。
◆言語の重要性と社会的役割
一方で、言語っていうのはもちろんすごく重要なツールなわけで、これがないと人間は困るんですけど、そこは基本的にはコミュニケーションのためのツールであると。
コミュニケーションのためのツールであると考えた場合に、言語が果たさなければいけないこととしては、一つ目はそれが学習可能であること。生まれたとき言語って生得的に持っていないので、それがちゃんと生まれてからすごい短い期間で学習できるように、できるだけ学習にとって単純になっているということと、その一方で、この言語で多くの情報を効率的に伝えられるようにするための進化っていうのが、言語の中でも起きて、言語がどういう意味を持つかとか文法がどうかっていうようなものが進化してきました。
これがコミュニケーションとしてあることで、人間は自分が持っていない経験や知識を他の人から教えてもらったり、本とか書いて、個人ではとても成し遂げられなかったような形で知識や思考を実現するっていうのをできているのは、これは確かです。ただその思考に関して言語っていうのは必ずしも不可欠じゃない。
◆人間の脳の進化
最後に、類人猿、例えばオランウータン、チンパンジー、一番近いボノボとかと比べて人間だけがなぜこんなにできるのかっていうところは、脳で見ると連合皮質って呼ばれている部分がものすごい発達してるんですけれども(一番外側の大脳新皮質とかそういうあたりです)、そこに言語領域も確かに含んでいて、そこで初めて言語が獲得されてるんですけど、それと一緒にそれ以外の思考能力も獲得されている。例えば先ほど言った「Multiple demand network」も他の動物にないぐらい発達している。
なので、言語も発達したんですけど、それとほぼ同時期に並列でそれらもどんどん発達していったと。人間の進化で突然変異か何かで獲得して、脳がすごく発達して、言語も獲得したし、思考ができるようになったっていうようなことが起きたんではないかという、そういう主張論文です。
◆今後の示唆とLLMへの影響
まあこれが本当かどうかはいろんな形で検証されたりすると思うんですけども、ここから得られる示唆としては、実際にうちに関係するところとして言えば、例えばLLMを今作って学習させたりしてるわけですけども、こういう話だとすると、やっぱり言語を単に見せるだけじゃなくて、さっき言った思考能力みたいなものを別途学習させたりする必要は出てくるかもしれないです。
言語の次の単語予測でかなりのことが学習できるんだけれども、例えば最近ポストトレーニングでいろんな方法が開発されていますけど、あそこでプランニングして学習する能力だとか、複数の情報を統合してそこで推論したりだとか、そういった能力をやる必要が出てくるし、それは言語と独立にできるかもしれない。ただ今はほとんどの学習用データが言語から来ているので、他がどこまでできるのかっていうのはちょっとわかんないですけれども、そういうことは必要になるかもしれないなと思います。

