Vol.29 AIは経済・労働をどう変えるか?
◆400万件以上の会話をプライバシーを保ったまま解析
Anthropic社のClaudeというLLMのサービスがありますが、実はプライバシーを保ったまま会話を解析する技術(Clio)が導入されています。これ自体も一度調べてみたいんですけど、結構衝撃的な話で、普通にLLMを使ってる内容が解析できる仕組みが入っています。
その仕組みを使って、400万件以上の会話を人が全く介在せずに、各会話が「何の仕事をしているのか」とか、「利用者がどんな人か」という職業を推定したりしています。そういったところを、どういうふうにこの瞬間LLMが使われているのかを分析したレポートが出ていました。
レポート自体は論文形式とブログで出ています。プライバシーを守ったまま解析する技術を構築した人がちょっと前に論文を出していて、それを使って経済学や労働に与える影響を分析する人が分析をしています。有名な研究者の名前が連なってますし、結構気合い入れて書いてるんだろうなと思います。
◆AIの利用状況に関する分析結果
結論から言いますと、利用の50%がソフトウェア開発と文書作成が占めています。結構予想通りの結果です。
その利用は経済活動全体に広がっていて、約36%の職種で少なくとも4分の1の仕事にAIを利用している。ここで言っている職種は、アメリカの仕事の分類基準のO*NET Databaseというのを使っていて、例えば人事だったら「こういう仕事にこういう種類のタスクがあります」みたいに、それぞれの仕事に各会話が何やっているのかを分類していることになります。
一方で、物理的な作業を伴う職業、具体例としてあがっていたのは麻酔医や建築関係の仕事の人はほぼ使ってないという、当たり前のように見えますが実際そうだということが確認されました。
また、AI仕事の中でものすごく使っている業務が見つかりました。75%以上の業務で使っている4%のユーザーが発見されて、これは言われればなるほどなと思ったんですけど、外国語の教師が教材の準備に使っていたと。
教材を作るのは大変だと思います。英語だったらたくさん教材もありそうですけど、例えばスウェーデン語を日本人に教えるための教材を作りましょうという話になったら簡単じゃないと思います。そういった教材を準備したりするところに使うというので、かなりヘビーに使っているのが分かりました。
◆平均収入とAIの利用状況
「AIの利用がどういう人たちに一番インパクトを与えるのか」というのは、昨今いろんな人がいろんなことを言っていますが、例えば一番最初は低所得者の単純作業からAIに置きかわっていくんじゃないかと言われていました。
最近だと逆で、高所得者、例えばプログラマーや研究者などから置きかわっていくんじゃないかと言われています。

しかし彼らが分析したところ、グラフの横軸が平均収入で縦軸がどのくらい使われているかプロットすると、今だとこの真ん中辺のゾーン、文書業務とか、特に簡単すぎず、超難しくないようなところで使われています。
バイオインフォマティクス技術者やコピーライター、チューターといったところが割合としては飛び抜けて使われていたというのがわかりました。
あとは、使われていた内容が、「仕事を自動化する」のか、「人間が会話しながら作業したり、もしくは人が学習をするように使う」のかというと、ちょうど半々くらい。
57%が人間の能力を拡張するのに利用していて、43%が直接タスクを完了するのに利用していたというのが今回のAnthropicの利用例になります。ClaudeはLLMサービス全体においてシェアが2、3割くらい、世の中全体のかなりの状況を反映しているのかなと思います。
◆会話解析の利点と影響
感想としては、まず一つ目がプライバシーを保ったままとはいえ、実際の会話を大規模に解析していいんだなという点。これは日本で同じようにやったら問題になりそうですが、踏み込んで解析しています。
AnthropicはClioっていうシステムでやっていて、相当気をつけて作ってるんだと思いますが、リスクはすごいありますよね。
ただ良い面もあって、例えば今まではこんな広範な業種の人たちがどういう活動しているのか統計データを取ろうと思ったらすごい大変だった。
どの仕事の人が仕事量増えているだとか、仕事の内容変わっているかとか、例えば今だと調査しようと思ったら労働局とかが一人一人インタビューを1年から3年くらいかけてやって、5年後にレポートが出るみたいな。
それがリアルタイムで出て、しかもトレンドが3カ月毎くらいに出せると思うんで、「AIが入ってきたことによって、ここの需要がめっちゃ上がってる下がってる」だとか、「同じユーザーで仕事が変わってる」とかも分かっちゃったりするんで、情報収集としてはすごい良いし、恐ろしい面もあるなと思いました。
私も本でちょっと書いてたんですけど、LLMを握ってると全活動が握れちゃうなっていうのは実際そうだなと思いました。
二つ目は、特にAnthropicの場合はプログラミングが得意だから、そこのユーザーが多いっていうのもあるんですけれど、今どんどん性能が向上しているし、特にマルチモーダルとか期待されていて、マルチモーダルでARとかVRと統合されると、物理的な作業で使いたい場合はそれこそ増えるだろうなって思います。
あとエージェント化ですね。前回説明したようなDeep Researchみたいなサービス。あれはサーベイ版ですけど、会計処理版とか営業版、マーケティング版、開発版とかいろんなのが出てくるので、そうするとAIの利用トレンドも変わるかなと思います。

