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Vol.35 AIが教育に与える影響

今回は、LLMが教育にどう影響を与えるのかについて自分なりに考えたことをちょっと話してみます。

AIについては専門家として詳しく話せると思うんですけれど、教育に関しては専門家ではないですが、個人的経験と考察から話せたらと思います。

まずAIが非常に賢くなっているのは確かで、ほとんどの分野で自分たちよりもテストさせたら勝つと。今年は東大の理三の合格水準を何もチューニングしていないモデルを使って突破したという話もあります。

あと何より私自身が日常的にLLMを利用しています。特に、自分の知らない領域だけでなく、自分の専門領域でも結構普通にLLMに聞くようになっています。

AIが自分と違うことを言っていると、昔はハルシネーションがあったから、AIまだまだだなという感じだったんですが、今はむしろAIが言ったら、あれ?自分間違っているのかなと思って、正解をチェックして、自分が間違っている場合が増えてきています。

そういう感じが現時点でもあるし、まだまだこのまま賢くなると思います。

◆AI導入による生産性の変化

そうした中で、AIがあるから学ばなくていいのか、働かなくてよくなるのか、という話に関しては、自分の意見なんですが、これはおそらくNOです。

特に専門領域であれば、使う人が専門領域の知識を持っていたり、その知識を活用できるような能力を持っているかどうかで、AIを使ったときの生産性の差が大きくなるという実験結果が色々出ています。

なのでAIがすべての人の能力を等しく上げてくれるというわけではなく、(これはこれで問題なんですが)もともとあった能力の格差を広げるタイプのツールになっているというのがあるかなと思います。

先日紹介したのは、材料開発で材料候補を提案するAIツールを導入して、導入前と導入後でどのくらい生産性が変わったかというものです。導入前の研究者の生産性が高ければ高いほど導入後の改善率が高く2倍くらいになって、もともと生産性が低かった人は導入後もほとんど変わらないという結果でした。

今のプログラミングなんかを見ていても、もともとプログラムを書ける人の生産性がものすごく上がっていて、そうじゃない人ももちろん上がっているのですが、それほど使いこなせていない。専門領域の知識が必要な領域であればあるほど差があるかなと思います。

◆働かなくてよくなる時代は来るのか?

2つ目の話、ちょっと軸がズレているのでまた違う話なんですが、AIがあるから働かなくてよくなるかということに関して、働かなくても少なくとも生活に必要なものが得られるような時代がもう少ししたら来るかもしれないです。しかし、みなが働かなくてすむようになるかというとかなり違った考えをもっています。

自動化・効率化が進んだら人間がもっと余暇時間が増えて色んなことできるようになるんじゃないのっていう話を100年前とか、下手したら1000年前ぐらいからずっと話をしています。

確かに産業革命が起こる前に比べたら、分業制で仕事ができるようになっています。しかし、そこで起きたのは効率化が進むことで新たな需要や規模が拡大して、結果として人間が行うべき仕事の総量が人間ができる限界まで増えるっていうことがおき、結果として仕事の量が変わらないということが発生していました。今回もこれと同じことが発生すると思います。

例えば、AIが登場して生産性が上がって、最近「頭がはち切れる」っていう表現があるんですけれど、AIがサポートすると自分が出せる能力以上の能力が出せてしまう。プログラムとか研究とか、AIを使うとずっと自分が持っている能力以上にやり続けるので、仕事が終わった後、本当に疲れ切るみたいなことになっています。

これはもうこの話とは別に、人間社会とか価値観とか社会システムとか、何かが大きく変わらないと、働かなくてよくなるとかそういうのは起きないかなと思います。

一方で、仕事自体はバーチャルな世界は実際に今ものすごい進んでいますし、あとはロボットがどんどん普及して物理作業のところも色々なところで自動化・効率化が進むので、そういったところで仕事の仕方は変わるし、企業も変わる。おそらく日本も世界も現在の仕事の内容やTOP100とかにのっている企業群が大きく変わるといった可能性はあるかなと思います。

自分にとって解りやすい領域の例でいえばAIが研究してくれるかということに関して言うと、これはもう半分YESだし、もうそうなってきてるのかなと思います。

何が重要か、面白いかを人がフィードバックしたら、AIが分かりましたと言って研究作業を調査したり、それに基づいて実験したり、実験結果を考察したりすることはあると思います。

ただし残りの部分、最初にいいテーマを選ぶとか、AIが出したざっくりしたテーマの中から本当にいいものを選ぶとかそういったところは、できる人が選ぶとうまく絞り込めて、それが競争領域になるので、結果として残念ながら研究者が暇になることはないかなと思います。

◆AIによる教育現場の変化

AIが今どこの領域で使われているのかを調べたときに、色んな領域で使われているんですが、半分ぐらいの利用がソフトウェア開発補助で、残りのかなり大きいボリュームは実は教育関連の仕事になっています。

教育関連と言っているのは、先生のような人たちが使う場合もあれば、生徒・学生が使う場合もあります。

自分自身も、専門書を読む場合にAIの助けを借りながら読むことが多くなってきています。

従来だったらそういう本はグループで輪講をしながら、分からないところをよく分かる人に教えてもらいながら読むとかしないと、とてもじゃないけれど一人で全部読み切れないので大変でした。

今は、それよりいいかどうかは分からないですが、AIの助けを借りて分かるまでずっと質問したり、その場で例や問題を作ってくれたりするので、学び方が全く変わっているなという感じがします。実際このおかげで昔読めなかった本をバンバン読めるようになっています。

2つ目ですね、人は教育にものすごい投資をしていて、若い時期から博士にいく人だと28歳とかまで膨大な時間を費やしているし、社会人になってからも学ぶ時間って多いわけです。

そういったところをAIは効率的にすることができる。個人の進捗や好みに合わせてAIが教材を用意してくれるっていうのはどんどん出てきていますし、今まではカスタマイズした教材はコストが高かったりしたのですが、それに比べたらAIのコストは格段に安く、フリーに近いカタチでアクセスできます

更に、教育現場の負担が軽減されます。これは子供を育てている親の世代はすごく分かると思うんですけれど、子供の回答を採点するのって結構難しいし、分からないところを教えるのも自分も分からないっていうのもありますし、問題作成も大変だし、教材作成も大変です。

今、LLM利用者で一番利用率が高いのが外国語教師です。日英くらいのメジャーなペアだったらいいですけれども、例えば日本語とチベット語とかその教材作りましょうってなった時に、分かりやすい例題を作るってすごく難しいです。

そういったものをAIが作ってくれるとかはあるので、利用率が非常に高いです。

◆将来の教育課題とAIからの示唆

悩ましい問題として、今の小さい子とか学校にいる人たちが大人になる10年後、20年後どうなるのかを予想するのはかなり困難だし、何で評価すればいいのかっていうのは分からない。そういった中で、学ぶもの自体はどんどん増えているわけですね。

なので、これはもう完全な個人的な意見ですけれども、教育にかけられる時間は限られているので、少なくとも全員が最低限学ぶものだけ集中して学んだ上で、先ほど言ったように色んな仕組みで、しかも低コストで学習できるような環境ができてくるので、後で必要に応じて学習できる能力の練習をすることができると、結果的にいいと思います。

何を学ぶよりもっと重要な問題に、そもそも学ぶ事自体に興味を持つようにできるのか、ということがありまして、学習能力には好奇心が大きな要素なんですけれど、好奇心を持たせるようにするのは結構難しいですね。

自分は好奇心が高い方なので、どうやったら好奇心を持てるんですかって聞かれるんですが、自分が狙って持っているわけじゃないのでどうするのがいいかっていうのは難しいです。

そこは人にもよると思います。例えば、学ぶこと自体に面白さを見つけられる人もいますし仕事に必要だとか、これを学んだらお金が稼げるとか人の役に立つとか、そういったことが分かったら学ぶようになったという人もたくさんいますし、何かのきっかけがあって面白いなと思うようになったとかもあると思います。

あと別の角度から注目しているのが、AI自体の学習の研究から人の教育についても何か知見が得られるかもしれないということです。

例えば、AIに関して数学の能力(数学の問題を与えて数学の問題を解ける)ですが、ベンチマークのスコアがちゃんと上がるように練習問題をたくさん学習させていくと、数学のスコアが上がるんですが、それだけでなく論理的な思考の能力も上がります。

また、プログラムの能力を向上させていくと、もちろんプログラムの能力も上がるんですが、計画を立てたり修正したり、あとはハルシネーションがあるかないかを論理的に考えて防げるような能力が得られるというのが分かっています。

人も昔から教養の学習が必要だっていうのがあって、全く関係ないことも学習しておくといいよだとか、若いうちは専門性よりも広く学んだ方がいいだとか、色んなことが言われています。これはAIの世界では実際に再現可能な形で示されている。

あとはAIの学習にも順番があって、あることを覚えた後にあることを学ぶとすごく学びづらいけれど、その逆だったら学びやすいみたいなものがあったりします。人の場合にこうした実験をしようとおもっても倫理的な問題があるし、個性もあるし、色んな環境要因もあるのでできないと。

そういった問題もAIなら色々試せると。このAIは最初に数学を学ばせて色んな能力が途中どうなっているのかを見れたり、この時にどこの能力を使っているのか、じゃあこの能力使ってそうだったらそこをノックアウトして、どのくらいできるのかとか、そういった色んなことができるわけですね。

そこからヒントが得られて、AIが少なくともこう学習しているんだっていうところから、もしかしたら人も同じような形で学習の仕組みが動いていたりと、何か知見が得られるのではないかなと。

これはもともとLLMが出た時に、言語の話ではよく言われていたんですが、言語だけでなく、より広い範囲のところでも同じように言える可能性はあるのかなと思っています。

これはちなみに教育だけでなく心理学だとかそういったところでも話されていたりします。

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