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Vol.78 AIが数学の難問を解く時代に、人間の研究者の役割はどう変わるか

岡野原 大輔

岡野原 大輔

共同創業者 代表取締役社長

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今日はAIを使って数学の難問が解けてきているという話をします。

◆特別なプロンプトなしに難問が解けていく状況

毎週ぐらいのペースで、数学の重要な問題がAIを使って解けているという発表があります。さらに驚くべきは何か特別なプロンプトとかを使うことなく、「こういう問題があるんだけど解けますか」と聞いて、6時間ぐらい経つと解ける、というのが出てきています。

例えば、有名なヤコビアン予想というものがあります。すごく簡単に言うと、何か空間があって、空間と空間の間の写像があり、それが一定の滑らかさを持っていて、局所的に写像した先から戻ってくるような写像があるとすると、全体でも逆写像が存在するんじゃないか、という予想です。これは1939年頃から提案されていた問題なんですが、ずっと解けていませんでした。

それが、このツイートの話だけなので本当かどうか分からないんですが、Anthropicの数学者の人で、この人がワールドカップを見ながら「この問題解けるか」とClaudeに解かせていたら解けて、結果はこの予想は間違っていると。予想に反した具体的な事例も出しています。

こういう問題は、反例が1個出たらそれで決着します。今回も、誰でも手計算で確認できるような簡単な式で「これが予想に反する具体的な事例です」と出てきたので、誰でも「実際に反例だ」と確認でき、予想が破られました。

◆単位距離問題やエルデシュの予想も次々と

これだけではなく、「平面上にn個の点を置いた時、ちょうど1だけ離れた点の組は最大でいくつ作れるのか(単位距離問題)」という事例に関しても、これも結構難しい問題で、なかなか解く術がなかったんですけど、かなり新しいアプローチで解けるようになっています。

これ以外も、有名な数学者のエルデシュが挙げた事例も片っ端から解けていて、毎週、下手したら毎日のように「こんな問題が解けました」というのが出ている状況になっています。

◆AIが解いた結果を人間が理解する

今後はAIが解いたことについて人間が理解することが重要になってきます。

上の事例は、テレンス・タオという数学者が、さっきの反例に対して「これがどういう意味か」というのをChatGPTに聞き直して、理解を深めているチャットのログです。

例えば「さっきの事例に関しては何か偶然、たまたま見つかったと思えないので、どういう理論的な背景があるのか」というのを聞いていて、「これはこういうやつがあって、こういう構造があるから、こういう反例が見つかったよ」のように会話を進めながら、「これは背後にどういう新しい発見が眠っていて、この発見から新しい洞察が得られないか」というのをずっとやり取りしています。

こんな感じで、今後もおそらく、かなり広い分野でAIが新しい問題を解けて、これに関して人間の研究者が議論をしながら理解を深めていって、そこから洞察を得て、次の研究に繋いでいくということは起きるだろうな、と思います。

◆なぜ数学が最初なのか、そして人間の研究活動への問い

AIは数学や理論物理といった、計算機内で検証までしやすい領域で大きく性能を伸ばし続けています。

すでに大部分の人の能力を超えているので(テレンス・タオくらいまでいくとまだテレンス・タオが勝ってるっぽいですけど私にはそこの領域はわからない)、賢いかどうかはともかく、証明するまでのスピードやコストが人とは違うので、いろんな研究の証明とかがこれからとんでもなく量産されていくと思われます。

そうした中、人間が今までやってきた研究活動はどうなんだ、という話が結構問題になっています。

そして、この話は、たまたま今数学で起きてるだけですが、おそらく他の領域でも起きてくるはずで、別の科学領域だとか、もしかしたら研究じゃないようなクリエイティブ領域だとか、そういうところでも起きてくるだろうと思います。

◆AI時代の研究のあり方

これに関して、テレンス・タオが7月24日に、こんな時代でAIをどう扱っていくのかというのを講演しています(参照)。数学者らしくAI能力予想という仮説を立て、その上でどのようになるのかを考察しています。

この「AI能力予想(AI Capability Conjecture)」と言っているのは、「近い将来のどこかで、AIツールがある程度のコストを使って人間のあるレベルに到達し、かなり広い特定のある領域の問題を、無視できない成功確率でどんどん解いていく」というものです。

その中で、かなり具体的に「こうした方がいい」と言っていることでは、少なくともこういうツールを使ったことに関してはどんどん公開していくと。

その上で、数学とか他の多くの研究で、第一発見者が一番奨励されるみたいなことは、おそらくもうなくなっていくだろう、というようなことを言っています。AIが見つけたら「AIが見つけたね、以上。」で、AIが見つけたことを紹介した人が奨励されるわけでもない、と。

一方で、今後重要になるのが、AIが出した結果を人間が消化できるのか。消化できるかという方の役割がどんどん大きくなっていくと。つまり、「正しいよね」と例え証明されたとしても、それをそのまま鵜呑みにするのではなく、人間が理解できる形まで消化するという方の役割が、どんどん重要さを増していくでしょう、というようなことを言っています。

前から言われているように、AIが出した結果に関しては、AIが責任を取ることはできないので、発表した人が責任を取るという話と、あとは、結果を発表する人は、少なくともその内容に関してはちゃんと人に説明できるぐらいの能力を持ってして、初めてその人が発表できる権利を持つ、というようなことを言っていました。

つまり、おそらく今後起きてくるのは、「AIは見つけました。ただ何言ってるか分からないです」と言って発表するのは研究としては許されず、発表する人は、AIが見つけてもいいから、発表する段階においてはその人が理解した上で自分の口で発表をしなくてはいけない。

何か聞かれたら、少なくともその人は答えられてディフェンスができる、というぐらいじゃないと発表しちゃダメです、というようにするのはどうか、といったことを話しています。

そうしないと、量産されて、誰もこれが本当かどうかを責任も取れないような状態がたくさん出てきてしまうので、そういったものをするとどうだろう、みたいなことを述べています。

結構これは難しい問題ですが、たまたま数学の分野で最初に起こっただけで、10年前はこれが囲碁や将棋に起こったわけで、これがいろんな領域で出てくるだろうと思います。

◆反例は得意だが、肯定的な証明はまだ

ちなみに私の見立てで言うと、まずAIは今、反例を見つけることにはとても成功しています。具体的な問題があった時に「これ違うよ」と1個でも見つけたらバシッと言えるので、反例は見つけられる。肯定的に証明するというのはまだ成功していないように見えます。もしくは見つけても人がそれを確認できないのかなと思います。

反例を見つけるのとは違って、ちゃんと公理から全部辿っていかなければならないので、Leanなどの自動検証できるツールを使って確認したりしますが、それはまだハードルが高いのかなと。時間の問題かもしれないけど。

あとは、重要な問題自体を見つけるのはまだできていないように見えます。このあたりは、クリエイティブな領域で本当に面白いものを作れていないのと同じように、何に価値をおくかがまだ鍛えられていないように見えます。

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